主に工学,情報系の大学院の方向けに研究テーマの決め方についてお話します.
特に博士課程に進学する方は今後の人生に大きくかかわってきます.
これから述べる方法は,基本的に博士課程に進学される方を対象としますが,修士課程へ進まれる方も参考になると思います.
研究テーマは,大きく二つに分けることができます.
1 自分で需要を作り出し,システムを開発する
2 世間で共通課題とされている物事に取り組む
まず,タイプ1は「論文などをサーベイし,論理的に需要を構築した後に,その需要を満たすためのアプリケーションあるいはアルゴリズムを開発し,それを評価する」というタイプの研究です.
このタイプは,アプリケーションを作る過程に重点を置きます.
その過程において,機械学習の技術を使いたいだとか,画像処理の技術を使いたい等の自身のもくろみを実現しつつ,技術的にある程度困難な課題に取り組みます.
この過程で身に着けたスキルは,企業などに就職する時のアピール材料になるでしょう.
しかし,こういったタイプの研究テーマは,オリジナリティは高いかもしれませんが,あまりおすすめしません.
理由は,主に2つあります.
・満足感が得られない場合がる
・キャリア形成に向いていない
自分で作り出した(無理矢理作り出した)ニーズを解決しただけでは,人によっては満足感が得られない場合が多いです.
また,このようなテーマは世間からの需要が少ないため,認められにくいです.
結局身に着けることができるのは,研究を実施する過程で身に着けたスキルのみになってしまいがちです.このような理由から,私は課程博士の方にはタイプ2の研究テーマをおすすめします.
世間の共通課題とされているものを解決すると,起業のタネにもなります.
その研究テーマが軸として,博士課程修了後もキャリア形成ができます.でも,その課題を解決できなかったらどうするの?
と思う方もいるかと思います.
実は,だいたいそのテーマに取り組めば完全には解決できなかったとしてもかなり前進します. そのため,3年も取り組めばたとえ狭い領域であったとしても,その道の第一人者になっている可能性が高いです. 目安として,情報工学の分野では開発したアプリケーションが販売できるレベルだと思います. もし手法であれば,その手法を使ってコンサルタントができるレベルですこれは個人的な感覚なのですが,私の場合いつも心の中に無能感,いわゆる自分は無能であるという感覚があります.
なので,私は本質的にほとんど調子に乗ることはありません.
この感覚は,東大に合格したり,出世したり,社長になったり,大金持ちになっても補えないものです.
だって,そんな人世の中に山ほどいるからです.上には上がいるのです.
そんなことを達成しただけで自分が偉いとか満足感を得られる人が私はうらやましいです.
しかし,博士課程の研究では狭い範囲であっても競合の中でトップを取らないと博士号は取りにくいです.
ですから,私にとっては自分の中に巣食う無能感を一瞬であれ解消できる良い機会だったのです.
最後に,タイプ1とタイプ2の違いが分からないという方に,例を挙げて説明してみます.
テーマは,「ロボット開発」です.
例えば,「高齢者の下の世話を自動でしてくれるロボット」を開発したとします.
これは間違いなくタイプ2の研究です.間違いなく世間から需要もあり,高齢者施設に販売できるかもしれません.
一方で,「高齢者とキャッチボールをして遊んでくれるロボット」を開発したとします.
先進的な技術を利用した二足歩行ロボットです.この研究はタイプ1の研究です.
なぜなら,このロボットは一部の高齢者にしか需要がない場合ないためです.
キャッチボールは怪我をするから嫌だと思う方や,そもそもそこまで運動できない方も多いと思います.
このように技術水準は高いのですが,需要があまりないタイプの研究ですね.
このタイプ1とタイプ2のいずれに取り組むかというのは,その人の向き不向きと今後のキャリアプランによります.
しかし,社会人博士の方にはタイプ1の研究をお勧めします.
理由は,研究に割くことができる時間が少ないからです.
残念ながらタイプ1の研究を成功に導くには時間が相当かかります.
寝ても覚めてもその研究について思考をめぐらす必要があります.
良いアイデアはそう簡単に思い浮かばないからです.
ご参考になれば幸いです.
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