今回は、修士論文の書き方について語ります。
私自身、情報工学の分野で修士論文、博士論文を仕上げており、教員経験もあります。
ですので、生物系の方は少し違うかもしれませんが、数学、工学系の学生さんの場合はかなり参考になると思います。
それでは、修士論文の説明からはじめていきます。
修士論文とは何か?
まずは、基本的な説明からしていきます。
修士論文とは、大学院の修士課程を修了するために大学に提出する論文のことで、学位論文と呼ばれています。
理系の修士論文では、平均して50ページ前後のボリュームで、日本語で書くのが一般的です。
参考文献の数は、30件以上は欲しいです。
執筆言語に関しては、博士後期課程で留学を目指している人は英語で書けば良いと思いますが、
それ以外の人は英語で執筆するメリットはあまりないです。
話がそれましたが、修士課程の研究成果をまとめたものですから、完成させるのは結構大変です。
修士論文を書き始める時期は?
この記事では、既にある程度の研究成果が出ている人を対象として説明します。
ここでいう「ある程度の成果」というのは、修士課程の中で学会発表を1回程度は経験しているレベルを想定しています。
かなり順調に進めようとすると、10月中に書き始めたいところです。
というのも、最終的にはどの大学も2月の初旬から中ごろに提出期限が設けられていることが多いためです。
そのため、遅くとも1月中には指導教員からのOKを貰いたいところです。
逆算すると、12月中に初稿を指導教員の先生に見せると順調に進むでしょう。
学会発表を2回程度行っており、ある程度研究もまとまっている人は、11月から執筆をはじめてもギリギリ大丈夫でかもしれません。
修士論文の構成
さて、ここで修士論文の構成についてふれておきます。
ほとんどの理系の修士論文の構成は下記のようになります。
- 緒論
- 背景
- 関連研究
- 手法(あるいはアプリケーション)
- 実験方法と実験結果
- 考察
- 結論
- 謝辞
緒論は、修士論文の構成について述べます。
ですが、緒論は基本的にはおまけみたいなもので、修士論文の本体は、背景から結論までになります。
背景の書き方
まず背景では、自分が取り組んだ研究分野における背景を書きます。
端的に言うと、背景を書く目的は、あなたの研究テーマを紹介するためです。
具体的には、どのような学問分野であるのかの説明と、その学問分野の中ではどのような社会的課題があるのか
、そしてその社会的課題に対してどのような研究がこれまでなされているのかについて書きます。
そして、「背景」の中で最も大切なことは、背景の最後に、「自分が取り組むべき課題」が何なのかについて書いてください。
これがいわゆるあなたの研究テーマそのものです。
実は、この「自分が取り組むべき課題」について触れられていない論文は、ふわっとした感じになりますし、
締まりがない印象を与えてしまうので、指導教授から指摘を受けるかもしれません。
さて、背景が固まれば、次は「関連研究」に取り組んでいきましょう!
関連研究の書き方
関連研究の章では、自分が取り組むべき課題に関してこれまで実施されている研究を網羅します。
研究分野によっては、「私の研究には競合研究がない」という人もいるでしょう。
実は、私が研究している分野も競合研究がなかったので、気持ちは分かります。
その場合は、できるだけ類似している研究をいくつか選んで網羅してみましょう。
網羅した後に、「これら色々と私の研究に類似した研究されているが、私が研究しようとしている課題に取り組んでいる研究は見当たらない」と締めくくってください。
こうすることで、修士論文の新規性を主張します。
他方、競合研究がある場合は、自分が取り組もうとしている課題との違いと、競合研究に勝っているところ、あるいは競合研究だけでは解決できないことがある等、の主張を行ってください。
この論理展開で自分が実施する研究には意義があることを主張するのです。
少し分かりにくいかもしれないので、例を挙げて説明します。
例えば、あなたの修士論文の内容が「なんらかのアプリケーションの開発」だったとしましょう。
この場合、関連研究では様々アプリケーション開発の研究を挙げて、自分が開発するアプリケーションはまだ誰も取り組んでいないということを述べます。
他方、あなたの修士論文の内容が「なんらかの手法」だったとしましょう。
その場合、関連研究では競合する手法に関する研究を網羅し、それらの手法に対して自分の手法はこの点では
勝っているということを述べてください。
ここまでが、修士論文の最大のヤマ場です。
「手法」以降は一本道なので、結構簡単に仕上がりますので安心してください。
手法の書き方
「手法」と書きましたが、ここでも手法、アプリケーション、そしてモデル(数式)、データ分析等
研究によって様々だと思いますが、ここでは手法と呼称します。
とにかく、みなさんが提案するアプリケーション、手法、モデル、データ分析などについて
詳しい説明を書いてください。実は、この章は、修士論文の中で最も簡単に書ける章です。
皆さんが実施したことについて順序だてて書けば問題ありません。
さっさと書き上げて先に進みましょう。
実験方法と実験結果の書き方
次に、「実験方法と実験結果」について説明します。
ここは、日本人にとっては書きやすい章だと思います。
なにしろ私たちは、小学校の理科の時間から、対照実験、対照実験とうるさく言われてきましたのよね。
実験方法と実験結果についても、そのような考え方で基本的にはOKです。
ここでは、再度手法とアプリケーションに分けて説明していきたいと思います。
はじめに、手法に関する研究をしている方は、たとえば競合研究で行われているアルゴリズムや数式を
実装し、あなたの提案したアルゴリズムや数式を実装したものを比較してください。
比較し、性能評価を行ってください。
性能の基準は、たとえば情報工学の研究であれば処理速度や精度などが多いでしょう。
次に、アプリケーションに関する研究の場合は、使用結果やユーザビリティが性能評価基準になることが多いです。
要するに、だれかユーザに使ってもらって評価するのです。
定量的な評価基準がある場合もありますが、ユーザビリティ等は、アンケートが多くなる傾向になります。
ユーザーに使用感をランク付けにより評価してらもうことになります。
このあたりの評価方法は、指導教員が決めてくれると思いますので心配ないです。
一般的に、実験系の検証は、「実証」と呼ばれます。
実証というのは、「実際に確かめてみる」ということです。
これと対照の用語として、「論証」があります。
論証というのは、論理的に証明するということです。
例えば、あなたがとある数式を提案したとすると、その数式を用いれば一定以下の計算量で済むとか、そのようなことを証明するのです。
情報系の研究では、ほとんどの研究が実証系ですが、一部理論的な分野では論証を使う分野もあります。
特に、数学、コンピュータグラフィックス、セキュリティ等ではそのようなタイプの研究も多いです。
さて、実験結果の章で気を付けるべきことがあります。
それは、「自分の感想や考察は書かない」ということです。
技術的な文章を書いたことがない人がやりがちなことで、感想を書いてしまうということがあります。
実験結果の章は、自分がやった研究成果そのものでもあり、意気上がっていますから、ついつい自分の感想をそこに入れてしまいがちです。
しかし、これをやってしまうと、指導教員からお目玉をくらうことは間違いないです。
あくまで、実験で得られた事実、結果を書きましょう。
最後に少し触れておきますが、分野や指導教員の考え方によっては、実験方法は手法の章の最後に書く場合もあります。
これは好みの影響も多分にあります。
次は、考察の章について説明します。
考察の書き方
考察は修士論文では非常に重要で、かつ初心者は間違いやすいです。
考察で必ず述べなければならないのは、下記の二つです。
①実験結果から何が言えるのかを述べる
②実験結果から、論文の目的が達成されたのか?を述べる。
まず①は、小学校から言われていることなので、誰でも分かると思います。
いつもどおり、実験結果からどのようなことが言えるのかについて客観的に述べましょう。
そして、②は、非常に忘れがちです。というか、ほとんどの人がすっとばします。
考察では、自分が書いた修士論文の有用性を主張しなければならないのです。
実験結果から、こうこうこういうことが言えるので、私が提案した手法やアプリケーションあるいはモデルは
関連研究ではカバーできていない何々の分野をカバーしている、というようなことを書いてください。
ものすごく自信があれば、関連研究のどれよりも上であると主張してもいいかもしれません・・・
あまりピンときていない人もいるかと思いますが、とにかく修士論文では考察が大事なので、ここまでヒントを書いていてもいろいろと指導教授からは突っ込まれるでしょう。
さて、最後は結論の章です。
結論では、修士論文で実施した内容をまとめて、今後の展望を述べてください。
最後の一行くらいは自分が言いたいことや感想を書いても良いかもしれません。
最後に、謝辞ですが、これは研究室やゼミでお世話になった先生方や秘書さん、そして学生のみなさんにお礼を書いてください。
以上が、修士論文の書き方です。
はじめて論文を書く方は一筋縄ではいかないと思いますが、参考になれば幸いです。