私事ですが,最近博士論文の審査に合格しました.
なんとか,運よく博士課程に入学してから3年で博士号を取得することができました.
日本の博士号なんて簡単に取れるんじゃないの?
と思われている方も多いと思います.
参考までに私の所属している研究室(情報工学系)では,博士課程入学者の半分程度の方が博士号を取得しています.
残りの半分の人は,途中で退学,あるいは満期退学しています.入学者は当然博士号を取れると思って入学していくる人達なので,この取得率は低いように思います.
少なくとも,「簡単にとれそう」と思っている人は,ほとんど退学する羽目になるというのが私の見立てです.
それでは,私が所属する大学における博士号についてみていきます.
これは大学や研究室,そして専攻によってかなり変わりますので,あくまで参考程度にしてください.
博士課程での学生生活について
博士号を取るために必要な条件について述べていきます.
それは,主に以下に述べるような関門です.
①研究ミーティング
②中間試験
③学会発表
④論文誌や国際会議への投稿
⑤博士論文の執筆
⑥博士論文の予備審査
⑦論文審査会(発表会)
①研究ミーティングは,基本中の基本です.多くの大学で週に1回程度開催され,
学生が中心となり研究の進捗を発表し,それについて教授陣に指導を受けます.
本人が発表する頻度は,多いところで週に1回,平均して月に1回程度が多いかと思います.
少なくとも月に1回は発表しなければなりませんから,研究の進捗がない場合は結構なストレスです.
人によってはこの発表が原因で退学を選ぶ方も多いです.
経験者からのアドバイスとしては,「周囲からの承認を求めるのではなく,承認の軸を自分にする」です.自分が納得できる研究ができれば,間違いなく博士号はとれます.
さて,このような研究ミーティングを耐え抜くことが第一関門でした.
次は,②博士論文の中間試験です.これが最初の山場になります.
博士論文の執筆計画とこれまでの進捗を研究科の教授陣に説明し,承認してもらう儀式です.
必ずしも全員が合格できるような予定調和ではありません.
感覚的には,「修士論文よりも少し厳しいくらい」だと思います.
準備はかなり大変です.大学によってはこの時点で論文誌に1本アクセプトされていることが条件になることもあります.
次が③学会発表です.こちらは比較的突破しやすい関門です.
修士課程を経験した方でも学会発表の経験はあるかと思いますが,だいたい一年に1回程度は研究室のノルマとして
発表することが求められます.研究の一環ですが,かなり時間を取られる作業でもあります.
さて,次の③論文誌や国際会議の発表が最大の難関ではないでしょうか.
私が所属する研究室では,国際論文誌に2件論文を投稿し,アクセプトされることが博士審査の条件です.
英語で書かなくてはいけないことに加えて,論文執筆にはテクニカルな技術が必要です.
この執筆方法を最初から会得している人はいないので,論文の書き方については先生に指導してもらう必要があります.
私の大学では,日本の論文誌ではだめで,かつ国際会議でもだめです.非常に厳しい基準だと思います.
また,論文誌は投稿から受理までに平均して半年から10カ月程度かかります.大学によって基準は異なるため,日本の論文誌や国際会議もカウントしてもらえる大学も多いと思います.
私は国際論文誌に投稿して,5回リジェクトされました.おそらくメンタルが弱い方はこのあたりで退学を選ぶケースも多いと思います.
なぜかというと,リジェクトされたことに対して先に述べた研究ミーティングでいろいろ批判などが行われるからです.
指導と言えば聞こえが良いですが,しょせん人は実績でしか判断しませんから,周囲からの評価も落ちます.
その程度はもろともしない神経を持ち合わせていることが大事です.
この関門をくぐることができれば,博士号は8割程度取れたようなものです.

さて,次が博士論文の執筆です.
基本的に英語で執筆することが推奨されます.大体の目安ですが,100ページで参考文献が100程度です.
先に挙げた2本程度のアクセプト済の英語論文をうまくからめつつ,書き足していくというイメージです.
この作業は相当大変です.私の場合は約2か月かかりましたが,論文執筆の最終段階で頭痛になって病院に行きました.
ずっとおなじ姿勢で作業していたため,筋肉が神経を圧迫していたようです.
最近ではGoogle翻訳などがありますからそこまで苦労はしないと思いますが,それでも英語が苦手な場合は結構苦労すると思います.
博士論文執筆までにできる限り英語力を上げておく必要があります.よかったらこちらをどうぞ.
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そして,博士論文の執筆が終われば実質的な最終関門である博士論文の予備審査です.
「予備」と書かれていますが実質的にこれが本審査です.
その昔,欧米の大学の博士課程では通称ディフェンスと呼ばれる本審査しか存在しませんでした.
ディフェンスでは,国内外の専門家,及び非専門家が集められ,その中で発表者が研究発表をします.
発表後の質疑応答に対してすべて回答できた場合,審査に合格することができるというものでした.
ディフェンスは相当に厳しく,審査に落とされる場合も多かったようです.
そのため,日本では一般的に本審査の前に,学内の教授陣に対して説明を実施するという予備審査というものが設けられています.
この呼び方は様々ですので,「予備審査」と呼ばずにこれを「本審査」と呼ぶ場合もあります.
そして,論文審査会(発表会)が最後の儀式です.
儀式とはいえ,ここで発表して質疑応答に答えなければなければ博士号はもらえません.
最後の最後まで気が抜けません.
以上が博士号を得るまでに必要となる道のりです.
これらの内容を3年で終えることができれば良いですが,それを超えてしまうと単位取得退学ということになります.
これまでの説明で,博士号というのは簡単にとれそうと思いましたか?
最後に博士号を取りたいという方にアドバイスです.
博士号を取りたいという動機が最も大切です.
例えばですが,「名刺に博士ときざみたい」「いばりたい」等,このような動機だけでは博士号はコスパが悪すぎます.
「やりたい研究がある」「将来の仕事につながる」など確固たるメリットがあるほうが挫折しにくいです.
このような動機を持っている人は博士課程に進学することをおすすめします.
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